2 ウクライナ 苦しみとともに歩む
映画監督・ジャーナリスト
新田 義貴(にった・よしたか)
世界を震撼させたロシアによるウクライナへの軍事侵攻は4年目に突入した。プーチン氏との親密な関係を自負するアメリカのトランプ大統領が休戦交渉に乗り出し、ウクライナの人びとは希望と不安が入り交じった複雑な思いでその行方を見守っている。僕は戦争が始まって11日後にウクライナに入国したのを皮切りに、これまで3回渡航し80日以上現地で取材を続けてきた。
住民虐殺が起きたブチャで取材する筆者
そんななか、ウクライナ南西部の港湾都市オデーサを拠点に27年間キリスト教の宣教活動を行う船越真人(ふなこし・まさと)牧師に出会った。2023年、ダムが破壊されドニプロ川が洪水を起こし、南部のヘルソンを中心に大きな被害が出ていた。船越さんはこの地域の人びとに水や食料などの支援物資を届ける活動をしていた。絶えず対岸のロシア軍占領地からの砲撃にさらされている危険な場所に、船越さんは防弾ベストを着てやって来る。妻の美貴(みき)さんと息子の勇貴(ゆうき)さんも一緒だ。船越さんは兵庫県にある加古川(かこがわ)バプテスト教会で育った。
海外宣教を志(こころざ)しアメリカの神学校で学んだ。ソ連崩壊後の地域にキリスト教を伝道するプログラムに参加し、たまたま訪れたのがウクライナのオデーサだった。ウクライナにはもともと正教会の古い歴史があり、プロテスタントの教えはなかなか受け入れられなかった。しかしソ連崩壊後の混乱の中で人びとは救いを求めていた。船越さんはロシア語を学び人びとに寄り添い、少しずつ信者の輪を広げていった。とくに力を入れたのがウクライナ社会に蔓延していたアルコール・薬物中毒の問題だ。教会にリハビリ施設を作り、根気強く中毒患者たちと向き合った。
激戦地で支援活動を続ける船越真人牧師
教会がようやく軌道に乗ってきたときに戦争が始まった。船越さんは戦闘の最前線に暮らす住民への支援に加え、避難民の受け入れや帰還兵士の心のケアなど多岐にわたる活動を続けている。船越さんの活動を通して、苦しむ人びとの隣人として歩み続ける本当のキリスト者の姿を見た気がした。船越さんを取材した映像はNHKの「こころの時代」という番組の YouTubeチャンネルで短縮版が配信されているのでぜひご覧いただきたい。
【こころの時代】ウクライナ 苦しみとともに歩む|牧師 船越真人|NHK
https://youtu.be/RjCpGiX0jnY?si=H_zroHpL6ZmN8j1u
最後に、休戦交渉をウクライナの人びととともに不安な気持ちで見守る船越さんから届いた祈りの言葉をご紹介する。
「主がご自身の正義をもってこの侵略と殺戮(さつりく)を終わらせてくださいますように。ウクライナの上に主があわれみを注いでくださいますように。主の栄光がウクライナで現されますように」。
戦場から帰還した兵士たちの心のケア
ドキュメンタリー映画『摩文仁 mabuni』:シアターイメージフォーラム(東京・渋谷)にて6月21日からモーニング&レイトショー