第3回 日本のバプテストの賛美の伝統とこれから
江原美歌子(えはら・みかこ)
相模中央教会 音楽・子どもユース担当主事/新生讃美歌推進担当
米国の神学校を卒業して帰国後、当時始動したばかりの『新生讃美歌』編集委員会に入れていただくことになり、最初に取りかかったのが、推薦する賛美歌を持ち寄ることでした。賛美歌が数百と集まる中で、それらをアメリカ、ヨーロッパ、アジア諸国、日本の賛美歌など、カテゴリーに分け、曲ごとの検討にあたっていきました。会議は二泊三日、年三回のペースで、連盟事務所で行われたのですが、あるとき、三日間ひたすらアメリカの賛美歌(主に福音唱歌)を検討した会議があり、以来、「私たちはなぜこの時代のアメリカの賛美歌を多く歌ってきたのか?」に関心を持つようになり、日本のバプテスト賛美歌史の学びを始めていきました。その中から、日本の初期のバプテストの賛美の取り組みとその影響についてご紹介しましょう。
19世紀後半、日本のバプテストでは、アメリカン・バプテスト宣教同盟宣教師のネーサン・ブラウンらが『聖書之抄書』(せいしょのぬきがき、1874)や『基督教讃美歌』(1887・1896)を出版するなど、礼拝と賛美歌の推進に力を注いでいました。その中で積極的に広めた賛美歌が、当時米国で盛んに歌われていた「福音唱歌」でした。
福音唱歌はキャンプ・ミーティング(大天幕集会)で歌われた「罪の救い」などをテーマにした賛美歌がルーツで、伝道集会における「招きと応答」などを含む礼拝で歌われてきたものです。日本のバプテストも大きく寄与した共通賛美歌集である1903年版『讃美歌』(いわゆる教団『讃美歌』のルーツ)でも福音唱歌は多く収録され、メッセージが分かりやすくまた親しみやすい音楽により、日本の多くの人びとに親しまれ、福音宣教、伝道に大きく貢献する歌となりました。「いつくしみ深き」がプロテスタント教会を代表する歌として受容され、今でも結婚式や教会の葬儀で歌われるのは、この影響といっても過言ではないでしょう。
日本バプテスト連盟が発行してきた『新生讃美歌』Ⅰ~Ⅳ、1989年版では、南部バプテスト連盟の諸教会で歌われてきた「福音唱歌」が収録され、『新生讃美歌』(2003)においても、これまでの福音唱歌を踏襲し100曲以上収録されたことは賛美歌集の大きな特徴となっており、これまで多くの皆さんにより愛唱されてきました。
そこに『新生讃美歌』(2003)で新たに「礼拝」の柱が加えられてからは、新生讃美歌一四番「心込めて主をたたえ」、21番「栄光と賛美を」、73番「善き力にわれ囲まれ」、342番「教会世にあり」、363番「キリスト 教会の主よ」等の新しい賛美歌がよく歌われるようになり、それらの賛美歌を通して、今求められている宣教のことばと音楽に、会衆による選び取りがあることを感じています。
多くの課題をかかえ先の見えないこれからの時代に、今度はどのような賛美歌が愛唱されていくのでしょうか。その向かう方向に大いに関心を寄せているものです。