5 占領地のパレスチナ人
映画監督・ジャーナリスト
新田 義貴(にった・よしたか)
毎日ニュースでイスラエル軍によるガザ地区への攻撃が伝えられている。しかし実は占領地であるヨルダン川西岸地区でもユダヤ人入植者によるパレスチナ人居住者への暴行や襲撃事件が激増している。ヨルダン川西岸地区とは歴史的にパレスチナ人が多く暮らす地域だが、1967年の第三次中東戦争で圧勝したイスラエルが占領し、今もユダヤ人入植地とパレスチナ自治区との間で衝突が絶えない。この地域には聖書にも登場するイエスゆかりの土地も多い。
前号でもご紹介した2005年の“ガザ撤退”の取材では、ヨルダン川西岸地区にあるパレスチナの町や村をよく訪れた。エルサレムの旧市街から公共のバスに乗ることおよそ30分。ベツレヘムの町の手前でバスを降り、歩いてイスラエル軍の検問所に向かう。パレスチナ人はここで厳しいチェックを受ける。外国人ジャーナリストである僕も警戒の対象なので、彼らほどではないが、訪問の理由や行き先など厳しい質問を受ける。ようやく検問を抜けるとベツレヘムの旧市街に入る。この町はクリスチャンなら誰でも知っているイエス・キリストが生まれた地だ。さっそく聖誕教会に向かおうとタクシーを拾う。陽気なパレスチナ人の運転手が名前を聞いてくる。日本から来た“ヨシ”だと名乗り、相手にも名前を尋ねた。
「僕はイーサだよ」。
一瞬驚いた。イーサとはアラビア語でイエスを意味する。
「君はクリスチャンなの?」
「ムスリムだよ。でも僕らにとってもイエスは偉大な預言者のひとりだから尊敬してるよ」。
聖誕教会は、イエスが生まれた馬小屋の場所に建てられたとされる。世界中から巡礼者が絶えない。幼稚園の頃からページェントで演じたキリストの聖誕劇が、2000年以上前にこの場所で繰り広げられたのだと思うと胸が熱くなる。ベツレヘムの町中にはイエスの聖誕を模したオリーブの木で作られたミニチュア人形がお土産として売られている。これを作っているのは、ほとんどがパレスチナ人の職人だという。なんだか嬉しくなってひとつ買い求めた。
今年、ベツレヘムではクリスマスツリーが飾られるのだろうか。平和の象徴であるイエスが生まれた地で、今も暴力の連鎖が続いていることにただ悲しい気持ちになる。
せめて世界の平和を祈って、今年もあのオリーブの木の聖誕人形を飾ろう。
ベツレヘムの旧市街
馬小屋の跡に建つ聖誕教会
オリーブの木で作られた聖誕人形
ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地
ドキュメンタリー映画『摩文仁mabuni』:
桜坂劇場(6月7日~ 沖縄・那覇)、シアターイメージフォーラム(6月21日~ 東京・渋谷)他全国順次ロードショー。
予告編 https://youtu.be/OjFzvHukg6M?si=X7AdcRqGefpg_ODu