聖書植物の復元(5)
長住教会(福岡)
小林 洋一(こばやし・よういち)
イチジクの葉と「ももひき聖書」
これまた、7産物の1つであるイチジクの話です。聖書植物園にあるのは、パレスチナ産のイチジクで、熟しても果実は青いままのものです。イチジクと言えば、その果実だけでなく、聖書では、その葉もまたよく知られています。道を踏み外した原初人アダムとエバがエデンの園において、イチジクの葉で腰巻きを作ったからです。これはイチジクの葉が他と比べて大きかったからでしょう。
「すると二人の目が開かれ、自分たちが裸であることを知った。彼らはいちじくの葉をつづり合わせ、腰に巻くものを作った」(創3:7)
16世紀、英国におけるカトリックの圧迫を逃れたプロテスタントの人びとは、スイスのジュネーブに亡命し、そこで英語版のジュネーブ聖書(1560年)を出版します。この聖書は、俗に The Breeches Bible(「ももひき聖書」または「半ズボン聖書」)とも呼ばれています。それは、アダムとエバがイチジクの葉による腰巻きではなく、「ももひき」(breeches)を作ったと訳されているからです。その真意のほどはよくわかりませんが、アダムとエバをイチジクの葉の腰巻きをまとう、彼らが考える原始人から、ももひきを履く文明人に仕立てあげようとしたからかもしれません。
主なる神はアダムとエバを憐れみ、皮の衣を作って彼らに着せます(創3:21)。イチジクの葉で作った腰巻きをまとう罪人のために、神はテーラーとなって着物を仕立て、それを自ら着せてあげます! 放蕩息子の父親(ルカ15章)を彷彿とさせる神の姿がそこにあります。